東京大学 人工物工学研究センター
価値創成イニシアティブ(住友商事)寄付研究部門
Research into Artifacts, Center for Engineering,
The University of Tokyo
 
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本研究部門の研究テーマ

 

理念

領域固有の工学知と汎工学的方法論に基づき、サスティナビリティや循環システムへの配慮のもと人工物と社会における新たな価値創造の手法論を体系化する。さらに、実世界問題における実践を通じて、革新的人工物のインテグレーションの原理と方法論に関する研究教育を行う。

背景

21世紀初頭の現在、国や地域を超えた地球規模での経済活動、いわゆるグローバリゼーションの進行に伴い、生産活動から日々の生活まであらゆる側面で変革が起こっている。特に顕著なのが多様な価値観の現われであり、固定的な価値観に基づく活動は変更を余儀なくされている。これまで一国あるいは一地域の安定した文化の中で生活してきた我々にとって、ものやことがらの価値というのは共有されかつ比較的固定的なものであり、それゆえ価値を陽に意識する必要はなかった。人工物を設計、生産し、利用するということは当然その背後にその人工物の価値が測られているからこそ行われる活動であるが、人工物の価値は多くの場合自明であり、それ自身が問題となることはなかった。 しかし、グローバリゼーションによって他の文化と交流することによって、価値観の違いというのが実際的な問題となってきた。さらにはグローバリゼーションの進行は新しい文化、社会システムを生み出しつつある。すなわちそれは新しい価値観の創出でもある。いわば、価値がいまや操作対象となり、いかに新しい価値観を生み出すかが経済活動のひとつとして認められつつある。 このような価値観の流動化は人工物の設計、生産、利用と2つの面において関わり合う。まず価値こそ人工物の存在の理由であるという点である。この点においては価値観が固定されなければ、人工物の価値は不明になり、人工物の存在が保証されえなくなってしまう。一方、価値観というのは人々の日々の活動から形成されてくるものである。存在する人工物や組織といった環境の中での人々の活動が価値観を形作る基盤である。この点からすれば、存在する人工物の体系が価値観を育むといえる。すなわち、人工物の多様化は価値の多様化と相互に関係している。 人々の作る組織も同様な関係をもっている。現在、組織構造は旧来の階層的かつ固定的構造から自律分散かつ動的なネットワーク構造へ急速に変化を遂げている。多様な価値を許容しうる構造が必要であり、またそのような構造がまさにまた新しい価値観を導いている。 目 的 本寄付部門では以上のような見地から、価値を人工物の体系、人々の関係構造すなわち社会システム、そしてその両者を結びつける設計、生産、利用という活動と相互依存のものと位置づけ、サスティナビリティや循環システムへの配慮のもと、新たな価値創成が可能なシステムを見出すことを目的とする(図1)。

図1 本寄付部門の研究俯瞰図

研究項目

本寄付部門において推進する具体的な研究項目は以下のとおりである:

人工物の体系の研究(人工物オントロジー)

設計、生産、利用されている人工物を体系づけ、その背後にある価値観を導き出す。人工物の多様性を産業界や、標準化、インターネット等の情報源を利用して人工物のオントロジーとして体系化を行う。そして、構築されたオントロジーを比較分析することで、各分野や文化圏の差異を見出し、それらにおける価値概念を発見する。このような基礎的研究に基づいて、サスティナビリティに配慮した人工物の体系といった新しい価値概念に基づく体系構築を試みる(図2)。

図2 オントロジーとその関係の構築:
新しい価値に基づくオントロジーの合成

コミュニケーション・ネットワーク研究

ネットワークとしての人間関係を分析することで、そのネットワークを形成する原理を探り、価値を形成するメカニズムを探求する。特に様々なコンピュータ・ネットワークを用いたコミュニケーションも含めて、企業活動や生活におけるコミュニケーションを探求する。具体的には価値形成の場としてのコミュニティの発見や分析を行う(図3)。

図3 価値形成の場としてのコミュニティの発見や分析

価値創成プロセスとしての設計研究

新しい価値の形成の手段としての人工物設計の探求をアブダクションに基づく設計過程理論に基づき行う。とくに価値概念創成と人工物設計を同時に行うようなプロセスの実現を目指す(図4)。

図4 アブダクションにより、価値概念創成と
 人工物設計を同時に行うようなプロセスの実現

高付加価値生産のための人工物生産システム研究

従来型生産システム構成法に代わる、生産環境の複雑化に適応可能な自律分散型の新しい生産システム構成法を構築する。変種変量生産を実現し、市場ニーズの多様化を充足し得る高付加価値製品のための生産システム構築を行う(図5)。産学連携により、産業界への技術移転にも積極的に取り組む。

図5 高付加価値生産のための人工物生産システム研究の例
多品種生産の実現と、設備故障等にロバストに適応
可能な自律分散型生産システム。ポテンシャル場を
介した自己組織化を用いる。

社会システムにおける価値創成過程研究

従来からの統計的・経済学的アプローチの限界を克服するために、社会システムを複雑適応系として捉え、計算機実験により価値創成過程を構築する。分散エネルギーネットワーク、バリューチェーン、リサイクルシステム等を対象に、社会システムを構成する各行動主体の行動とその意思決定過程を分析し、価値の創発過程を明らかにする(図6)。

図6 社会システムにおける価値創成過程研究の例
バリューチェーンの創発。サプライヤ、アセンブリ
メーカ、消費者、リサイクル業者などの構成要素間
の相互作用の結果としてバリューチェーンの構造が
創発する。

ネットワーク構造創発によるサスティナビリティ指標創出

実世界システムにおいて種々のネットワーク構造が観察されるが、ネットワーク構造の創発とそれが発現する機能は不可分なものである。所望の機能を発現するネットワークの創発メカニズムを明らかにすることにより、人間システムや人工システムにおけるネットワーク創発による価値創成過程を分析する。価値の一形態としてのサスティナビリティ指標と社会ネットワーク構造との関係について知見を得る(図7)。

図7 ネットワーク構造創発によるサスティナビリティ指標創出の例
自律分散型エネルギネットワークの創発。エネルギ
取引を介して小規模クラスタからなるネットワーク
構造が創発する。